Imani Tafari-Ama 著
2006年
Multi Media Communications
暴力の原因と現実を、性という視点から考察する
1997年に出されたジャマイカ警察の統計によると、ジャマイカで起きる殺人事件の73%、発砲事件の77%が、キングストン首都圏部で起きているそうです。
しかしそれから10年。ニュースを見ていると、明らかに首都圏部だけでなく、他の地方でも発砲・殺人・犯罪件数が増加している印象を受けます。
この本は、キングストン南部にあるサウス・サイドという地区で、約2年間のフィールドワークを行なった犯罪の原因考察です。
なぜサウスサイドが調査対象に選ばれたのか、それには一つ大きな要因があります。
ジャマイカにおける暴力犯罪の多くは、1940年代後半から加熱した2大政党の政治闘争が発端だというのが長年の定説です。
二大政党(元労働組合)が支持者を増やし、勢力を強める/守るため、それぞれの支持者を武装化させる。
政治家は、人口の多い都市部、人を動かしやすい貧困層に目をつけました。
つまり政治が暴力犯罪の大きな原因であった時代は、都市部、キングストン首都圏部で犯罪が多発していたのです。
サウスサイドは、1960年代半ばからそのシステムの中で大きな影響をこうむったコミュニティーのひとつ。
そしてその中にいる住民自身も、政治が暴力犯罪の原因だと考えています。
よって政治的要素の強いとされるサウスサイドが調査対象に選ばれました。
しかし武装化したギャングが麻薬売買やゆすりなど、ほかの違法行為で別の収入源を得、力をつけたとき、政治家に資金や援助を頼る必要がなくなります。
加えてそのようなあからさまな不正・腐敗を、ジャマイカ社会も、国際社会も許し続けるわけではありません。
今や警察、選挙(1997年〜)で、海外から顧問を招いて不正をただそうとする動きもある中、政治家が貧しい人たちに資金や援助を提供しても、直接票に結びつけづらくなっているのです。
そうすると、今ジャマイカで起きている暴力犯罪の原因を、すべてが政治(patron-client politics)にすることはできなくなります。
ならば今、ジャマイカで起きている暴力の原因は何なのか、それを考察したのが本書です。
著者は1995年に初めてサウスサイドで調査したとき、住民が一番欲しているのが「リスペクト(認めてもらうこと、敬意を払ってもらうこと)」であると気付きました。
―― (ジャマイカの社会)システムによる恒常的な侮辱が、約50万人を、ゲットーの貧困の中で
暮らさざるをえなくしている ――
―― 住民の多くは、「 仕事があれば若者も、精神的/物質的ななにかを手に入れるために、
犯罪に手を染めたりしない 」と思っている ――
まず第一章で暴力・犯罪の全体像をパズルに見立て、そのピースをひとつづつ提示。第二章からそのピースが、それぞれどんな形をしているのか考証していきます。
最終的に、タイトルにもある“ 性 ”という主軸を掘り下げていくのですが、著者自ら「混成的な分析」だと書いているだけあって、読むのに簡単な本ではありません。
しかし「 政治 」「 貧困 」「 音楽文化 」「 高い失業率 」と、さまざまなものが暴力犯罪の原因だと考えられている中、それぞれの要素(ピース)の考察は、いろんなヒントを含んでいます。
ゲットーの外で生活するひとたちは、じぶんが貧困や暴力・犯罪に対し無関係だと思っています。
しかし植民地支配、それ以降のジャマイカ社会が、ゲットーを育て、犯罪を生んでいるのかもしれないということを考えさせられる一冊です。
<参考資料>
『 Understnding Crime in Jamaica 』、Anthony Harriott 編、2003、UWI Press
『 Corner and Area Gangs of Inner-city Jamaica 』、Michael Mogensen 他、 2005?、Children in Organised Armed Violence
『 ボーン・フィ・デッド: ジャマイカの裏社会を旅して 』、ローリー・ガンスト著/森本幸代訳、2006、MIGHTY MULES'
<協力>
リンクジャマイカ、ユミさん
2007年1月10日
MIGHTY MULES' BOOKSTORE