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インフォーマー


写真(c) Dinstinctly Jamaican Sounds



   6月25日のグリーナーでは、犯罪の情報提供者出現にダンスホールのインフォーマー批判が悪影響を与えているのでは?という考察がなされている。 おそらくレゲエを聞いている人なら誰でも耳にしている言葉「インフォーマー Informer 」とは、「チクリ屋/たれこみ屋」と訳されていることからも、よい印象を与えていない。 外部の人間、特に警察に事件の情報提供する人や、人のウワサ話をする人のことを指しており、 最近では“バディス”のシャバが「ショタ・ファヤ」(2006、ミュージック・ワールド >> LION )で、オーラルセックスをする人、オカマに並んでインフォーマーにも銃をぶっ放すと歌っている。
 タイトルがそのまま「インフォーマー」になっているスノウの曲(1993)など、レゲエファン以外の人にもよく知られているところ。 (>>YouTube)  スノウはカナダのアーチストだが、この曲はポップチャートでも大ヒットになった。 「インフォーマーは言う/スノウがボスで、アイツがやった/ガンショットが響く/警察も言う、俺スノウがあの通りで刺したんだろうって/またガンショットが響く」
 トニー・レベルの「チャティ・チャティ」(1992?、ペントハウス)とはおしゃべりな人のことを指し、「お前がおしゃべりだから、オレは気の休まるときがないよ」というフレーズが印象的な曲。 なにかあるとすぐ警察に駆け込み、やれ誰それがガンジャ(大麻)を売っているだの、なんだのと告げ口する。 しかも彼女は友達のベイビー・マザー(こどもの母親)で妊娠中。彼女に手出しもしたくないし。。。という微妙な心境がコミカル、かつリアルに歌われている。 「ゲットーの生活じゃ、自分の身を守らなけりゃいけないんだから、そりゃ銃だって持つよ/もう人のことは放っておけよ」というのが本音。
 “人のことに構うなよ”と言えば、アドミラル・チベットの「リーブ・ピープルズ・ビジネス」(1986、テクニークス >> LION )が一番有名かもしれない。  レディ・アンの「インフォーマー」(1981、ジョー・ギブス >> LION )は、自分と恋人の仲を邪魔するようなうわさをする輩に警告を発した曲だ。 (今年シスター・ナンシー、シスター・キャロルとのコンビでグリーンスリーブスから再リリース。 (>> High Fashion)  その他グリーナー記事ではブジュの「マン・フィ・デッド」などが例に挙げられているが、インフォーマー・ネタの曲、インフォーマーのことに触れた曲は、調べればきりがないぐらいある。 それぐらい身近な話題なのだ。



 ジャマイカは小さな島なので、誰が言ったかわからないだろう。。。という油断は禁物。 特にインナーシティは小さな世界なので、「誰それが新しい服を持っていた」「誰それが××とつきあっている」「最近△△をしている」と行動がつつぬけ。 お互いのことをよく知っているので、困っていれば助け合うという利点もあるが、逆にこの緊密さの中プライバシーを保つということは困難で、人の知らない間に何かをしていたら、「アイツみんなに隠れて。。。」と疑いの目を持って見られてしまう。 自分が誰かにしゃべったことは、かならず他の誰かに知れ渡っているし、ねたみ・そねみがないことまでを噂して、お互いの命取りに。  ジェイコブ・ミラーが「テナメント・ヤード (集合住宅、借家)」(1976、ジャム・サウンズ)で歌っているのは、「ラスタはこんな所(プライバシーのない所)にゃ住めない」という嘆きである。



写真(c) Roots Archives



 そんな風に暮らしていると、近くで犯罪が起きても、目撃者は口を割ろうとしない。 特に犯人が同じコミュニティーの住人であれば、じぶんが報復されることが目に見えている。 「口は災いの元(Cock mout kill cock)」 ベイビー・シャムが「レゲエアーチストのメッセージが、事件の目撃者出現に歯止めをかけていることに影響していると思うか?」と問われて、とても納得のいく受け答えをしている。 「基本的に、じぶんが育つ過程で、何を見てもそれをしゃべらない、じぶんのことに集中するというのは次第に身につけていく誓いのようなもの。 生まれながらの誓いと言ってもいい。(中略)  アーティストは社会の映し出す鏡なんだ。 じぶんが普段見聞きしていることを歌にしているだけ。 逆に『悪いことはやめようぜ』と言って、どれだけの人がそれに従ってる? 結局人は、自分なりの判断をして生活をしてるんだ。」



 数年前、人通りの多い街中で白昼堂々殺害されたリンバル・トンプソンの事件は世間に衝撃を与えた。
 じぶんの家族を殺され、目撃者証言をした彼には警察の証人保護プログラムが適用されていた。 しかし貧しい生まれから地道な努力で勝ち上がり、ニューキングストンの会計会社に勤務していた彼は、ここまで築き上げた生活を捨てて外国に行くことをしぶっていた。 もちろん証言をしたリスクは承知の上で、これまで通りの生活をすべきだと決心したのだった。 警察は国内でトンプソンの安全を守るよう言われていたが、四六時中彼を見ていたわけではなく、事件は警察が目を離したスキに起きた。 この事件は「やっぱり警察はアテにならない。正義をつらぬいても口を割ったら殺されるんだ」という思いを強めるきっかけとなったが、誰も トンプソンのことを「インフォーマー」だとは呼ばなかった。 あのときトンプソンを「インフォーマー」と呼んだのは、加害者側の人間だけだっただろう。



 「インフォーマー」という言葉には、人の浮気や大麻・銃の所持をチクる人間から、強盗やレイプ・殺人事件までの証言者、すべてが含まれる。  事件の被害者が、いつも善人であるとも限らない。 なにかをしゃべってその人がインフォーマーと呼ばれるかどうかは、まわりの人間のジャッジメントも表しているのではないか。 シャムの言うように、人は自分なりの判断をして生活をしている。 信念のないおしゃべりが嫌われるのは、どこの世界でも同じなのだ。

2006年7月4日
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