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Love Me, Love Me Not 愛を求めるひとたち A

 
 そこは観光業に取り残された小さな町だった。生活に必要なもののほとんどが中心部に集中しており、観光スポットはすべて離れたところにある。築200年級の古びた建物だけが昔の栄華を物語っていたが、それも色あせつつあった。町中で観光客に出くわすこともほとんどなかった。
 Jは、わたしがその町に着いた初日、市場で「どこへ行く?」と声をかけてきた人。観光客が声をかけられるのは宿命なので、またかと思いつつ「ごはん食べるとこ探してる」とだけ返事して足早に立ち去る。すると遠くでキャベツを切りながら「なにを食べたいんだ!」 と叫んでいる。  「中華!」 面倒くささを感じながら、わたしは叫んだ。
「そしたら角の中華料理屋がいい!」
「そこにはもう行った! 閉まってた!」
「閉まってないよ、開いてるから行ってみな!」
「わかった!」
念のため角の中華料理屋をもう一度チェックしたが、やはり閉まっている。わたしは市場での会話を忘れ、別の店に入ってその日の予定をこなした。



 翌朝、郊外に向かうタクシーの中で乗客がいっぱいになるのを待っていると、窓の外から「昨日中華料理屋には行った?」と声をかける人がいる。「え?」と怪訝そうな顔をすると、「覚えてない? 昨日市場で会っただろ?」と言う。どうやら昨日市場で会った八百屋の人のようだ。
道向かいの店の前に腰掛けていた見知らぬ男性が、「彼女をカモろうとしてもダメだぜ。この人は本の取材で来てるんだから」と声を出して笑った。小さな町なので、昨日1日でわたしのことが筒抜けになっているのだろう。八百屋の男性はバツの悪そうな顔をして、「オレはただ、彼女が行きたいところに行けたか聞いただけさ・・・」と誰にしているのかわからない言い訳をした。「オレの名前はJ。あの市場で働いてる。アンタの名前は?今日はどこに行くの?」
「××」と答えるわたし。
「帰ってきたら市場に寄ってよ」 そう言って突き出された手をとり笑顔で握手したが、もちろん市場に寄るはずもなかった。



 その日の夜はビールでも飲みながらリラックスするつもりで、宿の主人におすすめのバーを教えてもらう。前日の夜も、風にのって聞こえてくる音にウズウズさせられながら寝たのだ。汗とほこりにまみれたポロシャツを脱ぎ、シャワーを浴びて着替えると、足取りも軽く町中に出て行った。すると突然 「どうして市場に来なかった?」 という声がする。今度は「またか」と思った。これまで2回も会っているJだ。しつこいにもほどがある。宿のまわりにたむろしている子達でも、1回ぴしゃっと言ったら声はかけてこないのに・・・。
「用もないのに市場には行かないよ!」
わたしはじぶんの自由と気楽さが犯されたような気がして急に腹が立った。観光客、しかもカモにされやすい日本人。それをわかりつつ女一人で行動するのが、どんなに神経を使うことなのかわかっているのか!と叫びたい気持ちだった。でもハスラーやピンプに気をつけすぎて、悪意のない人をディスするような行動はとれない。 無意識のうちにわたしはJをにらんでいた。
「オレはただ・・・」
また言い訳か?
「もういいよ。わたしは今じぶんの時間を楽しんでるんだから邪魔しないで。一人がいいの! わたしは大丈夫だから」
 それからJをあとに町へ出たものの、さっきまでの羽が生えたような気分は台無し。バーに行く気もうせ、ビールとつまみを買って宿にもどる。これ以上知らない人に声をかけられるのはうんざりだった。「もう帰ってきたの?」と宿の人に聞かれたが、「うん、なんか気分が変わって。 また教えてもらったお店には明日行くことにします。おやすみなさい」と言って部屋に入った。



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