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 その後、わたしは知人Kと会う。Kは一流企業の本社で内勤するシングル・マザー。一人娘はキングストンでも一番の名門高校に往復2時間かけて通っている。 Kは郊外に2階建ての家を購入し、明らかにわたしよりいい生活をしていた。 Kのお母さんは地方部でKたち7人兄弟を一人手で育てるが、男兄弟の二人は死亡、一人は現在服役中。女姉妹は全員成功していて、キャリアの道を選ぶか、豊かな家庭に入っている。彼女たちは夜学で資格をとり、少しずつ生活水準を上げていった。Kは末っ子の38歳。かわいい話し方をし、見た目もやんわりニコニコしているが、一回結婚に失敗していることもあり、やはり男の人に対する視線は鋭い。



「わたしはいっこでも相手に気にいらないとこがあったら、その人とは付き合わない」
中華のランチを前にKは言う。 わたしたちは布のナプキンが置かれたニューキングストンのレストランにいるのだが、とても一人では値段が気になって入れないようなお店だ。
「でも、嫌なとこいっこぐらいあったってしょうがないじゃん。人間なんだから。じぶんだって完璧じゃないでしょ?」
わたしがそうつっこむと、
「完璧じゃなくてもいいの。気になるとこがあったら、いずれダメになるのは目に見えてるじゃない? だったら最初からつきあわないほうがマシ」
「そんなこと言って、じぶんは完璧な彼氏がいるからね! あんなハンサムで性格もいい人、どこでみつけたのよ」
そう言うと、Kとわたしは女子高生のようにクックックといたずらに笑った。
「でもね、わたしはこどもが大学を卒業したら子育ては終わりだと思ってるの。だからそのときは会社をやめてカナダに行こうかと思って。 まぁ、まだ考えてるだけだけどね」
「カナダ! 彼はどうすんの。いっしょに行くの?」
「わかんない。そんな話しないもん」
「しないって・・・ そろそろKもずっと一緒にいられる人が欲しいころじゃない? 残りの人生を彼と過ごせなくてもいいってこと?」
「そんなわけないじゃない。彼とはいっしょにいたいよ。でも彼がカナダに行くのはいやだって言ったら、彼のことは置いていく」
Kの割り切りにわたしは驚いた。片や海外からはるばるジャマイカまでやってきて、なけなしのお金を “恋人だと思っている人” に何度も貢ぐ女性がいれば、あんなにハンサムでちゃんとした仕事をし、ちゃんとした生活をしている彼氏を、じぶんの進む道と違えば置いて行ってもいいと言うジャマイカ人女性がいる。だからKは勝ち上がり、成功したのかもしれない。彼とのつきあいはわたしが知っているだけでも数年に渡り、彼もほんとうにいい人なのだ。
「もったいない・・・」
思わず心の声を口に出してしまい、「もったいない? ほんとね」 とKに言われてしまう。
「でもそうなったらしょうがないわ」



それから、わたしは自立した女性たちの食事会に同席する機会があった。出席者は偶然全員が自営のシングル、もしくはシングルマザーだ。 やはり女が二人以上集まると、おのずと恋愛話になる。
「ねぇ、○○はどんな人が好きなのよ!」
今ボーイ・フレンドがいないという女性にみなが注目した。
「そうね、わたしのお金を食わない人」
それを聞いてみんな大笑い。ほんとうだ、そんな男の人はいらない。わたしも「究極の真実だな」と妙に納得する。と同時に、これまでの旅で出会った豊かではないLやJのことを思った。Lのように誠実な愛をはぐくんでいる人。でも彼はお金がないばかりに、愛する人といっしょになることができない。彼もその事実を受け入れている。そして35歳のJは、まだまだ恋愛や将来を考えていい年なのに、そのどちらも絶望的なサイクルにはまっている。そして信仰を心の支えにしようとしているのだ。



 世の中はお金だけじゃない。何の仕事をしているか、どんな生活をしているかでもない。しかしジャマイカの女性たちは上を見ている。そうでなくても女が一人で(もしくはこどもを抱えて)生きるのは大変なのだ。その上さらに恋人や夫という“負担”を抱えることはできない。
 しかしそれに応えられない男性も多いのではないか。そんな彼らはどうやって人を愛し、愛されるのか。みんなが上をめざすジャマイカ社会で、置いてきぼりの人がどれだけいるのだろう。
 わたしはどんどん上に上がろうとするジャマイカ人女性に取り残された男たちが、海外から「お金や地位ではない」という愛の幻想を持った外国人女性に性とロマンスを売る姿を想像する。 きっと彼らも、今の生活を変えたいのだ。 貢がれたお金でちょっとでもいいものを身につけ、お腹いっぱい食べ、もしかしたら先進国での生活を夢見ているのかも。 少し前まで力のない女性がしていたことを、今社会に取り残された男性がしているだけかもしれない。
 わたしは美しく、魅力的な彼女たちが談笑するのを見ながら、ヤム芋やコップに入った何ともしれないご飯をご馳走してくれたLやJのことが頭をかすんだ。 そして次の瞬間、
「でも、わたしにはやっぱり (ああいう人たちと付き合うのは) 無理」 と思う。
「ああいう人たち」 というのは、とても残酷で差別的な感情だ。
じぶんも 「彼女たちの側」 であることを感じながら、わたしは黙って目の前のカクテルをすするしかなかった。



 Lは、今日もイギリスにいる彼女を思いながら、一人で食事しているのだろうか。Jは、急になくなった仕事と罰金の重みを、ラスタへの信仰で紛らわそうとしているのだろうか。
 今も新たな観光客がジャマイカに降り立っている。そして観光客に声をかけて幻想を売る、悪びれた様子もない、目のきらきらした男女がいる。 身を粉にして働き、おしゃれなレストランで一時のやすらぎを得ている男女。 きっと、彼らのような人はジャマイカにたくさんいる。

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2007年4月19日 森本幸代

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