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       「 The Lunatic 」

Anthony C. Winkler 著  
2001年 LMH Publishing Ltd. (初版1987)   





マッドとまともの境界線

   多くの人が 「 愛だ! ユニティだ! 」と叫ぶ一方、暴力事件はあとを絶たない。  「 多くの人種からなる一つの国 」 がモットーでありながら、 貧しい者は貧しく、豊かな者は豊か。所得、肌の色による階級意識も根強く存在する国、ジャマイカ。 クリスチャンが多いので貞節に重点をおきながらも、自由な性関係が黙認されることしばし。 アンチ植民地/アンチ権威主義をうたいながら、権力者には無条件降伏してしまうこともある。 イギリスの支配が終わった今、新たな支配者は観光客か。 そんな多くの矛盾と建前/本音が混在する現実を、アンソニー・ウィンクラーは白日のもとに引っ張り出し、笑い、かつきれいごとではない故郷への愛を教えてくれる。



 主人公のアロイシャスは孤独なマッドマン。 住むところもなくセント・アンのブッシュに暮らしている。 幼い頃に育ててくれた叔母が「いつかあんたは法廷弁護士になる」と言ったのを信じており、誇り高い職業にふさわしき千の名前を持つ男。 読み書きができないのでラスタのリーズニングや小学校の授業を立ち聞きして言葉を覚えている。
 「アロイシャス・クモの糸・港湾労働者・技術支配国家・優勢である・複雑な・恍惚とする・国会議員・開祖・新緑色・ 張り合う・近日点・対立分型・知識人・純潔な・鉄の壁・つながり・植民地的な。。。」
アロイシャスが自分の名前を言いだしたら止まらない。 気に入った言葉はすぐ名前の一部になる。あたかも言葉の持つ力が体に取り込まれるように。

 アロイシャスの住むコミュニティーには「ブシャ」(Overseer・監督官のなまり。おそらく祖先がプランテーション監督だったことからつけられたあだ名)と いう裕福な白人がおり、彼の悩みはどうやって立派な墓を立てるか。 200年以上続くマッキントッシュ一族は地元の墓地に埋葬されているが、そこに出入りする動物たちにブシャは我慢がならない。 「死んでから自分の上を牛が歩いたり、顔の上に排便するのは屈辱的。絶対に許せない!!」と考えている。 「ここで生まれ育った者は、みんなここの土に返るのよ」と言う妻をどうやって説得し、動植物に犯されることのない霊廟を建てるか日々考えて暮らしている。

 そんな平和な村に不思議な観光客が紛れ込む。 彼女の名前はインガ。 ドイツから来た白人女性で、性欲がとても強い。 ふとしたことからアロイシャスに出会い、性欲のおもむくままアロイシャスをむさぼりつくす。 朝、昼、夜、時間や場所を問わず、むしろ毎回違った場所でインガはアロイシャスにまたがる日々。 しかし二人の間に愛情のこもった言葉や愛撫、キスはない。 インガはひたすら自分の欲求を満たすのみで、アロイシャスが彼女を満足させられないと容赦のない拳をふるう。 しかし木や牛を相手に会話し、孤独を癒していたアロイシャスはインガから離れられない。 愛しているのは単に彼女とのセックスか、「ひとりぼっちじゃない」という感覚か。 やがて彼はインガと共にブッシュで生活し始める。
 マッドマン・アロイシャスと白人観光客という組み合わせは、コミュニティーに衝撃を与えた。
「なぜ白人がマッドマンとつきあっているんだ??」
ジャマイカで肌の色が白いことは、実際の経済事情は別にして、特権階級であることを意味する。 肌が白いということは、選択肢があるということだ。 なのに白人が選んだのが、よりによってアロイシャス。 村の住人はあまりに意外な組み合わせを、全く理解することができない。
「彼女の目当ては黒人のアレ」
「それもただのアレじゃない。アロイシャスのは1キロもあるって話だ」
日曜日には多くの住民が教会に集う保守的な町で、あからさまな二人の関係はスキャンダラスだった。 しかし黒人のレンタドレッド(リゾートラバー)を求めてやってくる “マッドな” 外国人は、ジャマイカの常識など関係なく、ただ「それ」がほしいだけなのだ。



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