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   「レゲエ・トレイン: ディアスポラの響き」

鈴木 慎一郎 著  
2000年、青土社      





日本人が書いたジャマイカ本の中で、ぜったいに外せない一冊

 わたしの関心が「レゲエ」から「ジャマイカ」という国に大きく移行する、きっかけとなった本である。
 しかし「レゲエ」と「ジャマイカ」という国が切り離して考えられるということではない。むしろ本書では互いの存在、関係が密接に結びついていることをわかりやすく解説している。
 一般的にレゲエファンは、ジャマイカという国に関してあまり知識がない。ジャマイカ人のことも「勝手でおかしなやつらだけど、どこか憎めない」という程度に認識していると思う。レゲエに歌われる反抗精神の意味も、ゲイバッシングも、女性器・男性器崇拝の背景も、なぜ政治家や警察が嫌われているのかという理由も知らない。なぜジャマイカ人があんなに狡猾で、しかし彼らなりの道徳観と倫理観を持って、おおむね貧しいにも関わらず心温かいのかを知らない。
 この本ではジャマイカやレゲエに持たれている一般的イメージの考察に始まり、レゲエの歌にみられることわざから文化的背景を説明。レゲエファンには馴染みの深い「ボン〇クラー」という言葉の意味や、ゲイバッシングの理由などについても述べられている。
 「ダブ」の章では、ダブが「聞き手も生産者となってヴァージョニングを行うことにより、コール&レスポンスのように応答の繰り返しを生んでいく」という表現が含まれており、レゲエという音楽の懐深さ、柔軟性、可能性、普遍性を的確に指摘している。
 それからラスタ系アーチストが歌でも多く名をあげていることから広く認識されている「マーカス・ガーベイ」に関する章。これも一般的な「ガーベイ = ヒーロー」という単純な図式だけでなく、マーカス・ガーベイという人のもたらした意味や、彼を冷静に見たとき浮かび上がってくる数々の事実があげられており、「歴史とかそんなことはわからないけど名前は聞いて気になっていた」という人には格好のガーベイ入門となっている。
 そしてそのガーベイと並ぶカリスマ的牧師だったアレクサンダー・ベドワード。彼も人によって様々な評価がなされているが、ジャマイカという国のミステリアスな部分を理解するためには、彼の存在も決して無視できない。それから本書は「ラスタ」「メント」「ナイヤビンギ」「ジャマイカ独立にまつわる話」、『バンバン』や『チェリー・オー・ベイビー』など名曲を生んだ「フェスティバル」、「クリケット」へと続いていく。
 「女性」という性(ジェンダー)に関する章では「スラックネス(性的な下ネタ)の隆盛はレゲエの衰退か」という話に始まり、ラスタ世界での女性像など様々な例をあげてジャマイカの女性に対する価値観、その位置を説明している。これは少しでもレゲエやジャマイカの文化に触れた人なら誰もが感じることだと思うが、ジャマイカの女性観(女性の位置)と日本のそれとではかなり大きな隔たりがある。それは単に女性が弱い立場に置かれているというだけでなく、ジャマイカ人女性の生きる世界がかなり制限されているということだ。この問題は女性がどんどん高等教育を受けて西洋的価値観(人権という意識)に目覚めている現在において、いろんな葛藤と可能性を含んでいる。
 それから「ソカがうるさい」と敬遠されがちだったカーニバルについて。
(注: 2000年初頭まで、ジャマイカでカーニバルと言えば中上流階級のお祭り騒ぎのように言われていましたが、2006年現在、ダンスホールアーチストのコラボも進み、垣根は低くなっている。)
レゲエにもよく歌われるゲットーの生活についてと章は進んでいく。この「インナーシティのジレンマ」と題された章は、おそらく多くのレゲエファンの心に一番印象深く残る部分だろう。リトル・ロイの『トライバル・ウォー』、リロイ・スマートの『バリスティック・アフェア』、オムニバスアルバムの題名にもなっているグリーンベイ事件を例にあげ、レゲエに歌われるインナーシティのジレンマをわかりやすく解説。一世を風靡した名曲、バウンティ・キラーの『フェダップ』に歌われているのはこういうことだと非常に参考になった。「ドン」や「バッドマン」、レゲエによく歌われる警察と政治家バッシングの背景をここに見てみんなにも理解を深めて欲しい。
 そして最後の「奴隷子孫の気高さ」。ここではジャマイカ人の大きな語り口と、彼らの美徳、誇り高さにある背景を考察している。
 全体を通して鈴木氏が「これを伝えたい」「伝えなければ」という思いに駆られて本書を書いただろうことが読む者にもひしひしと伝わってくる。「あれも」「これも」という思いにあふれ、一文一文の意味が濃い。何度読んでも新しい発見があり、その都度著者・鈴木氏のジャマイカやレゲエに対する造詣の深さを思い知らされる。 この本は、"日本人の書いた"ジャマイカ関連書の草分け的存在となっていることをここに伝えておきたい。

2002年11月21日
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(2006年6月22日加筆訂正) 

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