DVD
2007年 UPLINK
ルーツとアフリカ、ザイオン
どこか懐かしい雰囲気が漂うジャマイカ。
ちょうどハイレ・セラシエの誕生日で、ラジオからはラスタのメッセージやルーツ・ミュージックが一日中流れている。
病院 ( 西洋医学 ) を信じないラスタと、「 病院に連れて行ってくれ 」 というラスタの不思議なルーツへの旅。
この映画が実際に撮影されたのは2003年から04年にかけてなのだが、物語の陰の主役であるおんぼろ車 ( 移動式レコード・ショップ ) が、チャーリー・エースのスイング・ア・リング・モバイル・レコード・ショップを彷彿させ、レゲエ・ファンは自然と 「 かつてのジャマイカ 」
を思い浮かべる。
そしてこの移動式レコード・ショップで売られているLPはといえば、“ アップセッターの ” ウェイラーズ。
舗装されていない田舎道、ホイッスル・フロッグ、ロバに乗って鼻をたらした少年、車を追いかけてたかってくるこども、ルンバボックスを演奏する粋な中年男性、貨物列車、手作り感の漂う狭いラジオ局。
もう見かけない移動式レコード・ショップが一つあるだけで、今も残るジャマイカの風景まで独特の空気をかもし出している。
そして出てくる登場人物、エピソードの一つ一つが、ジャマイカで誰もが出会うものばかり。
DVD版の特典映像でハコビ監督自身語っているが、これは昔のジャマイカを再現したものでも、今のジャマイカを描いたものでもなく、監督 ( ジャマイカを好きな人 ) が持っているジャマイカのイメージなのだという。
「 ルーツ・タイム 」 にある空気は、移動レコード・ショップに憧れていたハコビ監督やわたし ( たち ) のイメージするジャマイカ。
無邪気でかわいいのだけど悪魔のようなこども達、すぐキレて怒鳴りまくる人、いいかげんなんだけれども憎めない人、いかにも怪しいイカサマ師、
そして不思議なスピリチュアリズム。
すべてが “ あるジャマイカ ” のイメージを基盤に進んでいく。
リアリズムを出そうとする映画が多い中、逆にフィクション/ハコビ監督のヴィジョンを追求した 「 ルーツ・タイム 」 は、オーディエンスが心地良くじぶんの好きな世界を楽しみながら、笑い、緊張し、ほろりとさせられる作品になっている。
初めて演技をする出演者も多かっただろうに ( もしかして全員初心者? )、この映画制作を楽しんで監督のヴィジョンに共感していたのか、はたまた全員が生来の役者だったのか、ストーリーの中で非常にリアルな表情を見せているのも特筆すべき点だ。
結果的にとてもリアルになっている。
ハコビ監督は、グローバリゼーションの中で消えゆくマイノリティーを映像作品の中で残そうとしているという。
最初はラスタも清廉で高潔な少数派というイメージを持ってジャマイカに入ったのかもしれないが、実際ジャマイカで数ヶ月を過ごし、スタッフやキャストと生活を共にしながら 「 ラスタは消えゆくマイノリティーではない 」 と感じたかもしれない。
少なくとも 「 ルーツ・タイム 」 でただ清く神聖なラスタだけを描いてはおらず、それが説得力を持って 「 消えない真実 」 のラスト・シーンにつながっているのではないだろうか。
最初は主役の二人、故ジャー・ブルとバブーのコミカルなやりとりを見ながら、ハイレ・セラシエの誕生日を祝うラジオ番組 「 バビロン脱出 」 のトークを聞き流し、
オープニングの 「 ルーツに帰るのだ 」 というディスクジョッキーのトークがいつもの決まり文句に聞こえていた。
しかし彼らがルーツに回帰してアフリカ/ザイオンに到達した時、見ているこちらまで胸がいっぱいになる。
まるでわたしたちのヴィジョンが一致したかのような錯覚を覚えるのだが、やはりこれもハコビ監督の手腕。
そうとわかりつつも、しばらくこの幸福感に浸っていたい。
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「ルーツ・タイム」公式HP
協力: 鈴木慎一郎さま
2008年1月7日 森本幸代