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         『パトワ単語帖』

森本幸代著
2006年
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柔軟でライブなことばの魅力、創造力

 ここでいう「パトワ」とは、ジャマイカで日常的に使用されていることば、ジャメイカン・クレオールをさします。 ジャマイカの公用語は英語ですが、ふだん会話で使われているのはパトワです。 ジャマイカの歌も、その多くがパトワで歌われています。 本書に収録している単語は、わたしがレゲエを聞いたり本を読む上で出会ったものです。
 パトワは移り変わりが早く、ダンスホールを中心に、日々新しい言葉が生まれています。 この本では気軽に読めるよう単語の出典をひとつづつ書いていませんが、1960年代以前のものはミス・ルーの作品を中心にピックアップしました。 彼女は社会派の作品を多く残しているので、農業や動物、市場、フォークロア、日常生活に密着した単語が多かったです。 それが’60年代、’70年代のレゲエになると、今度は政治やラスタファリズム、ラガマフィンに関する単語が目につくようになります。 そして’80年代、わたしがレゲエを聞き始めた’90年代前半はスラックネス slackness(下品なこと。いわゆる下ネタ)全盛期。 女性の局部や性交を表すことばがたくさん使われていました。 当時は耳についた言葉を先輩やジャマイカ人に聞くにつけ、なんと“ソレ”を差す単語の多いことかと驚きましたが、男性リスナーに「大事なものを表す言葉は多いんだ」と言われ、妙に納得したことを覚えています。(真偽のほどは不明)  やがて時代はルーツ&カルチャーの時代に突入し、それまでアゲアゲ・イケイケのスラックネスを歌っていたアーチストもラスタに転向。 今度は「ライシャスネス Righteousness(清廉さ、正義)」「コンシャスネス Consciousness(気づくこと、意識の高さ)」の時代になりました。 現在は英語を中心に、よりハイプになるあおり言葉やダンスの名前が多いように感じます。
 しかし英語を元にしているとは言え、ガンサルート gun salute(なにかを祝ったり、気分の高揚を表して銃を発砲する)を知らなければ、バウンティ・キラーがなぜ「ブレッ! (Bullet 弾丸)」と叫んでいるのかわかりません。それが以前の「プラン・プラン pram pram」「ポウ・ポウ pow pow」(いずれも銃声音を真似て)と同じだとは気づかないのではないでしょうか。 映画『ラフン・タフ』で一番最初にダンスでガンサルートをしたのは、トレジャー・アイルのデューク・リードだったと言われていますが(もちろん真偽は不明)、そのエピソードを聞いても、当時のダンス(レゲエ)がどんなものだったのかを物語っています。 (注: 銃の不法所持や発砲はもちろん犯罪です)
 男性器を表す「バンブー bamboo(竹)」も、エレファントマンが物議をかもし出した「アナコンダ anaconda(大蛇)」を経て、今は「ライフル rifle」「ガン gun(銃)」などで表現されることが多い印象を受けます。 つまり時代とともに同じこと指す言葉も変化しているということです。 そしてその変わり方も、時代背景によるところが大きいのです。
 本書は新旧のジャマイカ音楽を聞いたり、パトワで書かれたものを読む際、参考になる単語を集めています。 単語は約3,100語、熟語は1,300、例文も1,350、文法や発音のページも12pありますので、ボキャブラリーを増やしたいという方、これからパトワを覚えようと思っている方にも使っていただけます。
 ジャマイカのパトワは正式なつづりがあるわけではなく、決まった意味が定められたことばでもありません。 しかしそれゆえの柔軟性とウィット、創造力が本書を通じて読者の方にも伝われば幸いです。 もちろん「これはこんな意味では?」とか「この単語が入っていない」というご指摘があるかと思います。 そんなときはお気軽にマイティ・ミュールズまでご連絡ください。 みなさんのお力も借りて改訂し、より楽しい本にできればと考えています。

2006年12月2日
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