Anthony Harriott 編
2003年
UWI Press
ジャマイカの犯罪と影響をいろんな切り口から考える
先日 『 Blood, Bullets and Bodies 』 を読み終え、続いて読んだのが今日ご紹介する 『 Understanding Crime in Jamaica 』 です。
本書はジャマイカの犯罪とその影響を、犯罪・経済・社会学の専門家が分析したもので、
2001年に西インド大学で開かれたシンポジウムで発表された論文、『 Caribbean Journal of Criminology and Social Psychology 』 に収録されている文章で構成されています。
第一章の 「 The Jamaica Crime Problem 」( Anthony Harriott ) は、過去30年間を振り返り、ジャマイカ社会や犯罪の傾向がどのように変化してきたか、その概要と問題を提示。
一口に犯罪といっても、殺人事件や暴力事件が増加していること。
個人間の対立よりグループ間の対立が増加しているため、状況が急激に大きく変化する可能性があること。
現在暴力がビジネスになっており、「保護料」と称したゆすりで得る収入が大きな資金源になっていること。
組織犯罪グループが特定のコミュニティーで独自の規則や罰則を実行していることなど、後につづく考察の序章的な役割を果たしています。
第二章は Obika Gray による「 Badness-Honour 」。
この著者は2004年に 『 Demeaned But Empowered 』 ( UWI Press ) という本を出しており、その中で Badness-Honour (ワルという誇り、ワルを崇拝する傾向、ワル信仰)に関しても細かく論じています。
レゲエやダンスホールはジャマイカ社会を写す鏡でもあるので当たり前ですが、よくレゲエを語るときに使われる「バッド(ワル)」の理解が深まる章です。
第3章の「 Historical Roots of Violence in Jamaica 」( Amanda Sives ) は、ジャマイカの政治暴力の発端・初期段階でもある1949年の出来事を掘り下げています。
続く「 Garrison Politics and Criminality in Jamaica 」( Mark Figueroa、Amanda Sives )。
この章は珍しい調査報告かもしれません。
1997年以来、ジャマイカの選挙は公正さを目指し、アメリカのカーター・センターから監察団を招いて行なわれているのですが、それによって票集めのために行なわれていた Patron-Client Politics やギャリソン・コミュニィーがどのように変化しているかを投票数から検証したもの。
これはかなり興味深いです。
おすすめの章。
第五章は Anthony Harriott による 「 Social Identies and the Escalation of Homicidal Violence in Jamaica 」。
これは第一章で提示したテーマを詳しく考察した文章なのですが、興味深かったのは「一見政治がらみの暴力に見える事件が、実はグループ間の誇り/権力をめぐる抗争であるか」という部分。
具体的な事例を挙げ、そのコミュニティーの人に話を聞いた「裏側」は、今起きている多くの暴力事件が “社会の生み出した問題” であるという視点を補強しているようにも感じました。
Marlyn J. Jones による第6章は、サブタイトルの「 Victimization of Jamaican Woman 」が示すように、女性をめぐる犯罪を考察した章になっています。
女性がどのようにして家庭内暴力やレイプの被害者になっているか。
そしてそれに対する社会・法律の冷たさなど。
このテーマはほかでもつっこんだ議論がなされることが多く、性犯罪者、特にこどもに対する性犯罪者に対する取締りや罰則を厳しくしようという動きは年々強まっています。
しかし1993年にアメリカで出された調査報告によると、「レイプ加害者の98%が逮捕されることも、有罪判決を受けることも、受刑することもない」らしく、性犯罪の奥深さを感じずにはいられませんでした。
第7章から9章は犯罪が観光業にどのような影響を与えているか。
これもよくジャマイカで言われることですが、「犯罪が観光業に悪影響を与える」という決まり文句。
しかし実際どのように影響があるのか、数字では出されたことがなかったので面白い考察です。
サービスを提供する側の考える犯罪と、観光客の考える犯罪(マイナス点)を比較しています。
最後の第10章「 Crime and Public Policy in Jamaica 」( Don Robotham )はまとめの章。
ここでは「ジャマイカの犯罪が投資家を遠ざけている」という固定観念の検証から始まり、実際ジャマイカの経済を停滞させているのは犯罪なのか。
そして犯罪自体がジャマイカの経済とどのようなかかわりをもっているかを述べています。
ジャマイカは「収奪的な社会」という言われ方もしますが、それは下から湧き出たものではなく、上からおおいかぶさってきたものです。
そういう社会自体が犯罪を生み、助長しているんだという議論に再び立ち返らせてくれます。
しかしそういうシステムがあるのは、上に立つ(上の方にいる)人間の単なる失敗ではなく、それによって利益が生まれているからでもあります。
今ジャマイカは選挙、警察の部門で少しずつ不正を除去しようと動き始めています。
問題の全てがすぐに解決されるとは思いませんが、まだ全く動いていない部門があることも確かです。
この本はあくまでジャマイカの「犯罪」を論じたものですが、 “まだ動いていない主軸” が、国内外からの圧力を受けて動き始めるか否か。それが様々な問題解決の突破口になるような気がしました。タイトルが示すように。
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2007年1月15日
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