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   「 Wake the Town and Tell the People 」

Norman C. Stolzoff 著
2000年 Duke Univ. Press    


ダンスホールという場を考察


 今「ダンス」と言うと「踊り」を想像し、「ダンスホール」は打ち込みリディムの音楽形態を思う人が多いかもしれない。 しかし近年までジャマイカで言う「ダンス」とは、場としての「ダンスホール」を差すことが多かった。 今日ご紹介する 『 ウェイク・ザ・タウン〜 』 は、アメリカ人のストルゾフ氏が1994年から'98年にかけて行った、ジャマイカの(場としての)ダンスホールに関するフィールド・ワークをまとめたもの。 単に音楽だけでなく、ジャマイカにおけるダンスホールの社会的な意味や、ビジネス的な側面も追っている。 協力者はジャマイカの音楽・文化研究家から、レゲエ・アーティスト、スタジオ、サウンド・システムに及び、著名人も数多く登場するので 読んでいて飽きない。
 本の構成としては、「まえがき」でストーンラブとメトロメディア、キラマンジャロのクラッシュ場面から始まり、著者がどのようにレゲエに魅せられていったかが書かれている。 次の「ジャマイカのダンスホール文化」でジャマイカにおけるダンスホールの意味を解説しているが、 本書が執筆されただろう'98年頃と今のダンスホール事情は違うので、この章は「'98年頃までの話」として参考程度に読まれた方が良い。 1990年代末から現在にかけて、ジャマイカ自体がさらにアメリカの影響を受けたこと、 ダンスホール自体にアッパークラスの若者が入ってきたことなどがあり、現在のジャマイカではかつてダンスホールが持っていた意味も、その位置も変わってきている。
 「奴隷制から第二次世界大戦までのダンスホール」では当時ミュージシャン協会の会長だったヘドリー・ジョーンズ氏の話に ジャマイカ音楽の歴史を交えながら章は進んでいく。しかしこの時点でレコードをまわす、セットを持ったサウンドシステムはまだ誕生しておらず、 メントやスイングのバンドの話が中心。奴隷制時代にジャマイカ黒人の祖先がどのように自分達の音楽を形成していったのか、 どのようにアメリカ音楽の影響を受けていったのかが書かれている。その音楽の歴史もためになるが、ジョーンズ氏の話がなかなか興味深い。 昔の人はこんな感じで音楽をやっていたのかと親近感を覚える。
 それから「サウンドシステムの隆盛」。この章になるとデューク・リードやコクソン、メリトーンのウィンストン・ブレークらも登場して、 サウンド・システムの起源に話が移ってくる。そしてスタジオの設立、アーチストの誕生に。この章はとても面白い。
 「ジャマイカ独立後のダンスホール」。ここではジャマイカの政治的、社会的背景を説明しながら、どのようにボブ・マーリーらのラスタ系アーティストが 反抗の歌を歌っていったのかなどが書かれている。ダンスホールもこの辺になると随分様変わりし、社会的な位置づけが変わってきたことがわかる。 そしてこの章の最後には、少しだけダンスホールにヒップ・ホップの波が押し寄せてきていることにも触れられている。
 それから「レコーディング・スタジオとダンスホール・カルチャーの創造」の章ではダンスホールの経済事情が職種別に述べられているのが珍しい。 「有名なアーチスト、サウンド、プロモーターっていくら位もらってるの?」「スタジオ経営者って儲かってるの?」という素朴な疑問に答えてくれる。 この章は著者がスタジオたむろ組に翻弄されつつも、フィールド・ワークがよく発揮されている章だ。 ダブストア・スタジオが舞台の中心になっているのだが、スタジオの設備や経営のみならず、そこにたむろする無名アーチストの生活が描かれている。 実際ジャマイカのスタジオに足を運んだことのない読者には興味深い内容だろう。
 そしてダンスホールアーティストの夢と現状が描かれる章。ここではアーティストのランク分け、歌のジャンル、どんな過程を経てトップ・アーティスト/セレクター になるかという話がされている。こんな風に細分化してまとめた文章をみたことがないので、書かれている事自体は珍しくないが、「こういう風に書くのもアリか」 と妙に納得してしまう。ただアーティストやセレクターを目指す若者のバックグラウンドも年々多様化しているので、 ここに書かれている事が今も全く同じとはいえないので注意が必要。
 そして「ダンスホール・パフォーマンス」の章。ここはダンスができるまでの裏の部分、チューパーがいた頃のジャロのダンスがライブに描かれている。 ジャロのかける45からダブ、チューパーのMCまで書かれていて、「ダンスを文字で見る」という新しさに驚く。当時のジャロサウンドが聞こえてくるようだ。
 そして最後は「まとめ」。アップタウンとダウンタウンのダンスを比較したり、ダンスホールにおける性の話などなど。
 全体的に見て、誰もここまで詳しいダンスホールの本を書いていないので、ここまでダンスホールに特化してまとめた筆者の功績は大きい。 ダンスホール・ファンは字で読むダンス(ダンス文化)を新鮮に感じ、ダンスホールに馴染みのない読者には絶好のテキストになっている。 表紙を開いた一番最初に、チューパーの「誰もダンスホールを説明することなんかできない。実際に来て、体験してみろ。」という言葉を載せているが、 あのダンス独特の感覚をここまで文章化しただけでもすごい。 だから近年ダンスホールを語るとき、本よりも手っ取り早くダンスの現場やショーの映像、アーティスト・インタビューをまとめたDVDという手法の方が好まれるのだろうか。  元々著者の「なんでダンスホールのことをまとめた本がないんだ?」という思いから端を発した一冊だが、これ以降もここまでダンスホールに特化した本は出ていない。  

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2002年11月26日 森本幸代
(2008年2月3日加筆・修正)

 
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