Sharon Leach
2006年 Star Apple Publishers
リアルな女性の性と生
「彼に言えないこと」 タイトルからして意味深である。
ぼーっと本屋の棚を見ていても、多くの女性が思わず手に取るぐらい(無責任な予想です。根拠はありません)、大方女性は彼に言えない秘密を持っている。
本の中にじぶんと似た経験を期待する人。 もしかしたら、じぶんの彼女がどんな秘密の可能性を持っているのか知りたいと願う男性がこの本を手にするかもしれない。
実際そこには、女性であればどこか身に覚えのあるような話が収録されている。
本書はジャマイカの女性がキングストン、NY、パリで生活するエピソードを盛り込んだフィクションの短編集。
一番最初の 「 How to Leave (彼との別れ方)」 は、 ある女性が男性と出会い、交際し、別れを考えるまでのお話。
―― 主人公の女性はキングストンに暮らすミドルクラスのシングル。黒いカクテルドレスに身をつつみ、ハイソなホームパーティーに出向くのだが、じぶんが目をつけた素敵な男性はセクシーなじぶんの友達に気がある様子。そしてじぶんに紹介されたのは、少しランクのおちる隣の男性だった。
お腹のところに寄ったシャツのしわを伸ばしながら、握手を求めてくる彼。せっかくこの日のために、上限額ギリギリのクレジットカードを使って買ったサンダルが無駄になったような気がする。
「君の話はよく聞いてるよ」というあいさつさえ、“学生のように味気ない” と感じるのであった。
どうせじぶんが気に入った男性は、うしろで友達とじゃれあっている。泣きたい気持ちになりながら、彼女は紹介された男性とデートの約束をする。
少なくとも彼はじぶんのことを気に入っている。それに満足しながら3度目のデートで体を許す。じぶんがイニシアチブをとっている感じもよかった。そして交際がはじまる。
しかし彼がどんなにまともな普通の男性でも、彼女は満足することができない。いつもどこかで彼の嫌なところをみつけては、じぶんを騙しだまし関係を続けていく。
そして何年かの時が経ち、ふと夜中に目覚めたとき、隣に寝ている彼のくさい息や(明け方近いので口がにおうのはみんな一緒)、お腹のところまでめくれあがったTシャツ(だれでも寝ていればそうなる)に限界を感じ、別れを真剣に考えるのだ。「今から出て行こうか」と。
そしてそう考えていること自体が、なにも疑わずじぶんに安心しきっている彼への裏切りなのだ・・・というお話 ――
こうあらすじを書いただけでも、「なんて女だ! そんなだったら最初からつきあわなければいいんじゃないか!」と男性からブーイングが飛んでくるかもしれない。
だから、「彼に言えないこと」なのだ。
ほかにもミドルクラスの女性が、教師という仕事に退屈さと空疎感を抱き、“やりがいのある” 娼婦になる話。
観光地のホテルでハウスキーパーをする女性が、気高く美しい女性客に憧れを感じながらも、現実のプレッシャーに折れて米ドルのため体を売る話。
離婚した夫は “ ともだち ” になったはずなのに、彼が今の妻とうまくいっていると感じる胸のしめつけ。などなど主人公はどれもジャマイカ人女性ながら、ユニバーサルに共感できる話が15話おさめられている。
いろんな場所に暮らす様々な階級の女性たちが、悩みや不安を抱えながらそれぞれなにかに気づいていくのが最大の見どころ。
著者のすぐれた観察力・洞察力が、描写や設定をよりリアルにしている。
著者 シャロン・リーチは 『 オブザーバー 』 紙のコラムニスト。自身もキングストン出身・在住。『 Kunappi; Journal of Postcolonial Writing 』 『 Blue Latitudes: An Anthology of Caribbean Women Fiction Writers 』 『 Jamaica Journal 』、 『 Iron Balloons: Fiction from Jamaica's Calabash Writer's Workshop 』 にも短編を寄せている。
これまで多かった「ジャマイカの」現実ではなく、「普通の女性の」現実を扱っているところにジャマイカ文学の成熟を感じる。
2007年4月25日 森本幸代